超短編ストーリー 第20話 交渉

2020年5月14日超短編ストーリー,執筆作品

青年は仕事の帰り道、家の近くのコンビニへタバコを買いに寄った。

レジで支払いを終えて外へ出ると、中学時代のクラスメートと久しぶりにコンビニでばったり会った。

彼とは同じクラスだったのはたったの1年。1,2度だけ放課後に遊んだ事があった程度の仲だった。
グループの中に居たからたまたま遊んだことがあるというだけの仲。

現在何の仕事をしているかなど話している内に思いの外盛り上がってしまい、その辺りの居酒屋で飲もうという事になった。

瓶ビールで乾杯した。さっきの話の続きでお互いに近況を話し、会社の話になった。

1時間程経った辺りから、クラスメートが自分の事ばかり話すようになり、青年は相槌を打つのみとなった。

それからすぐにクラスメートの話が段々自慢話っぽくなり、イライラし始めていた。

(なんで誘いを断らなかった…)と青年は後悔していた。

「その大きな商談を目前に、今いろいろ考えててなぁ。ここぞという時にどうも踏み込めなくて。この気持ち、お前には分からないだろうなぁ」

このままではこいつのせいで今日のこの時間が無駄になると思った青年はクラスメートの肩を叩いて言った。

「そんなんで大きな商談がうまく行くと思ってるのか。誰でも最初は初めてだ。当たり前の事。例えば、お前が歌手だったとする。だが1回もステージに上がった事が無かったら、1回目は尻込みするだろう。だが1回ステージに上がったなら、それ以降は案外平気でステージに上がる事が出来るもんだ。例えば、お前がプールの飛び込みをしようとしたとする。だが1回も飛んだ事が無かったら、そりゃあ初めてなら恐怖心で一杯だろう。だが1回飛んだなら、恐怖心を克服できるもんだ。人生、そんなもん!ここでやるかやらないかで勝負が決まる。ここぞという時に踏み込めないっていうのは、今のうちに決断力を養う必要があるんじゃあないか?うむ、大いに必要ありだ。そうだ。とりあえず、清水の舞台から飛び降りてこい!」

よくもまぁこんなに言葉を並べられたものだ。青年が言った内容は、テキトー、いい加減、酔っ払いの戯言。青年は口にしておきながら(どの口が言ってるんだ)と心の中で自分に突っ込みほくそ笑んでいたし、本当に清水の舞台から飛び込んでしまえばいいのにとさえ思っていた。

それより後に交わした会話、別れ際の挨拶等、青年は全く覚えていなかった。

それから1週間程して、夜に知らない番号から電話が掛かってきた。
「俺だよ。こないだ飲んだ。そうだよ。番号登録しといてくれよ。それはそうと、この間は本当ありがとうな。お前のおかげで取引の値段交渉がうまくいって、会社からも評価されたよ」

電話を切ると、青年はつぶやいた
「あいつ、飛び降りどころか羽ばたきやがった…。しかしどんな上手い飛び降り方をしたんだ?」

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