超短編ストーリー 第25話 炎のゆらぎ
ろうそくの炎を見ると落ち着く人は多い。厳密には炎のゆらぎだ。「1/fのゆらぎ」という声質をもつ歌手は、奇跡、天才とされる。ろうそくの炎も「1/fのゆらぎ」らしい。
その青年もろうそくの炎に魅了される一人だった。ひと月程前の週末に祖母に会いに行き、去年亡くなった祖父の仏壇にお線香をあげようとろうそくに炎を点けた時がきっかけだった。帰りの駅に向かう途中、祖母の家にあった物と同じろうそくをドラッグストアで購入した。
郊外のアパートで一人暮らしをしていた青年は、祖母の家から帰ってきて以来、1日1本ろうそくに火を点け、最後まで使い切るというのが日課になっていた。
ゆらめく炎を見ていると、その時だけは会社での嫌な事も忘れる事も出来て、とても落ち着く。最後の消えそうで消えないところがまた心地良い。
いつからか、「この炎は不意に消えるような事があってはならない」と思うようになっていた。気流が変わってはならない。窓を開ける事やエアコンを点ける事などもっての他だ。
ニュースで青年の部屋近くが画面に出ていた時も、青年はろうそくの炎に夢中だった。
その頃には青年は間違った思想にたどり着いていた。
「ろうそくの炎が不意に消える事があるとすれば、それは自分が死ぬ時だ」
晴れた日曜日の夕方。
1時間程点いていたろうそくの炎を眺めながら言う。
「もう少しだ…」
二人の声が重なった。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません