超短編ストーリー 第6話 番号

2020年4月28日超短編ストーリー,執筆作品

土曜日の午前中のことだった。

青年は友達の家に行くため、電車で椅子に座っていた。

誰もが聞いたことはあるであろう、流行りのゲーム機を手にしていた少年が向かいに座っていた。

横にいる女性が母親らしいが、母親は本を読んでいた。

友達の家は遠いので電車もあと30分は着かない。

あまり眠くはなかったが、青年は目を閉じた。

程なくして何の気なしに目を開けてみると、向かいの少年が居なかった。

(あれ?歩く足音とか聞こえなかったはずだけれどな)

母親の方は相変わらず本を読んでいた。

次の瞬間、電車のドアひとつ分向こうの方から

「はちー!」
「さんー!」
「きゅう!」
「ごー!」
「にー!」
「ろく!」
「ななぁ!」

さっきの少年が、椅子に座っている人の前まで歩き、次々と座ってる人に向かって指を指しながら数字を伝えていた。

得意げに「貴方の数字を教えてあげよう」といわんばかり。

青年は子供自体あまり好きではなく、愛想笑い等もしたくなかったので、自分のところへ来ないよう願っていた。

周りの人間は自分の番がすんなり終わったので安堵し、すっかり愛想笑いもできていた。

少しだけ微笑ましい光景。

その一方で青年の心は(くるな・・・!くるなよ!?)と叫んでいた。

だんだんと近くなる数字を伝える声。


はたして青年の願い虚しく、その時はやってきた。

少年は周りの人間も刮目せよと言わんばかりに今までになかったモーション付きでふりかぶり、勢いよく青年を指差し、そして唱えた。


「5万飛んで4でーす!」


願いが報われなかった怒り、そして何より「なんで俺だけ万単位なんだよ!」という思いは確かにあったが、この微笑ましい光景を壊してはならないとの思いから、青年は今自分に出来る最高の返しをしようと試みた。


「ズ、ズコー!!!!」


その声が異様に大きすぎたからなのか、返しがあまりにもつまらなかったのからなのかはもはや青年には考えることすらままならなかったが、この静寂の空間の中で「確実にすべった」事だけは実感していた。

青年は赤面しその場に居ることが耐えられなくなり、次の駅で途中下車した。

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