超短編ストーリー 第9話 10の質問
よく映画で出てきそうな、田舎町の薄暗いモーテル。
50歳の男は眠らされ、そこに監禁された。犯人はモーテル・オーナーの年配の女だ。
そのモーテルの一室は、朝になってもカーテンが閉じられているので暗く、体力を消耗させる為なのか、室内が異様に暑かった。
男は手足をロープで縛られ、椅子に座らされていた。
頭部は何も覆われていない事から、五感の自由は【許可】されているようだ。
目の前に低いガラステーブルがあり、その上にノートPCが置かれている。
ピポッ
突然ノートPCから音がなり、ビデオ通話画面が映る。
男はノートPCが遠隔操作されている事に気づいた様子。虚ろな目で画面を見つめた。
「グッドモーニング!えーっと…いや、あんたの名前は忘れたけどどうでもいいわ!」
「これはどういうことだ!なんでおれはこうなった!」
少しの口論が続いたが、スピーカーのボリュームを上げられた。
「うるっさい。会話は【あたしの質問にあんたが答える】この形式だけにさせてもらう。わかったかい、このヴォゲ!」
男は肩を落とした。下を向いているので女にその表情がわからない。
「あぁ…」
少しの間の後、男は返事をした。
「どうやらわかったようね。理解が早くていいわ。ほんで、今から10の質問をする。あたしの質問に、いい感じに答えられなかったら、い、生きて帰れないから。いい感じってわかるわよね?」
(おいおい……)
「時間がない。これ1時間以内に終わらせたいんでよろしく。」
「あぁ…」
そうして10の質問は始まった。
「で、では始める。クエスチョン1。どうしてあんたはあたしに監禁された?」
(おい…!おまえがしたんだろ知るか..くそ..)
「10…9…8…」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!10秒の時間制限があるなんて聞いてなかったぞ。やりなおしだ!」
「おやぁ?物言いか?だがそれもそうかぁ。わかった10…9…8…」
少しの時間稼ぎが出来たので答えられた。
「それは、俺があんたに何か失礼な事を言ったからなんじゃぁないか?」
「ふぅん?そうなんだ…では次の質問いくわ。クエスチョン2。あんたはあたしに、ど、どんな失礼なことを言ったでしょうか」
今度は長い沈黙となり、男はため息を漏らした後こう言った。
「ちーん…。もう駄目!もう無理!はい終わり!今日も駄目!またあそこでどもったぞ!?本当にそれでオーディションに受かろうとしてんの?」
「ごめんなさい。でもね、あたし、あなたが居ないと生きていけないから「あんた生きて帰れないよ」みたいなことなかなか言えなくって…」
「でも、俺が毎回台本を用意し、おまえはただ喋るだけの練習だぜ?こっちは雰囲気出すためにご丁寧に部屋もセットしてる!もう少しがんばってほしいよなぁ!というか暑すぎるわ!」
「ごめんよ~え~ん」
その熟年夫婦の、こっ恥ずかしい会話までもが収録された動画が、新型コンピューターウィルスによりバラ撒かれることになろうとは二人は知る由もなかった。
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