連載中『本』-1-

2020年5月6日執筆作品,連載小説

「いらっしゃいませぇ。あらお兄さん、今日は早朝からどうしましたの?」
女主人は珍しそうに聞いた。
「おはようございます、おばさん。今日は、ちょっとね~」

「おはようございます!お二人は、知り合い?」
真由美が聞いた。

「違う違う、このおばさんが愛想がいいだけ」
「いいえ~、ご贔屓にして頂いてますのよ。」
「ふぅん、そうなんだね~」

「お水をどうぞ。ご注文は決まってますか?」

「じゃ、僕はいつものコーヒーでお願いします。」
「は~ぃ」
「じゃあわたしはぁ..えーと、あ!ミルクセーキとか久しぶりに飲みたい!ミルクセーキお願いします!」
「は~ぃ。少々お待ちを」
女主人は戻っていった。

「へぇ~常連認定されてんじゃん」
「そうみたい。2日に一回は来るから覚えられたんだ。」


「じゃ、さっきの壮大な話の詳細を聞かせてみてくれる?」
「あ、うん。いいよ。でも約束忘れないでね。さっき信じるって言った事」
「あぁ、大丈夫」
二人は真剣な顔になった。

「じゃぁまず、【突然世界】から…」
「ふむ」

「この言葉、教えといて何なんだけど、金輪際口にしないで。私以外の掃除人に聞かれて【置き去り人】とバレて消されるから。考えようとするのも止めて。口にしてしまう元だから。」
「最初に言わしてもらっていいか?自分でその言葉使っておいて口にするな、考えるなってのはおかしいぜ?」
「掃除人の掟にあるの。『置き去り人に突然世界の住人であることを認識させなければならないが、認識効果は自然でなければならない。』と。自然っていうのは疑問を持たせないってこと。」

「は、はぁ…。」

「ん?考えないっていう姿勢だけでいいならできるでしょう?」
「考えるなっていったってさぁ…」

真由美は淡々と口にした。
「あるところに20歳の男性が居ました。その人は信じると言ってくれた人でしたが、担当の掃除人が深く考えないようにと忠告したにも拘らず、逆に考えてしまい…6日後に消えました。またあるところでは21歳の男性が居ました。担当の掃除人は考えないよう約束してと言いましたが、そんな話あるかとバカにして去って行きました。この人は会って当日に消えました。」
「なんだって?」
「前担当してた置き去り人の話をしてる。一人目は他の掃除人が消した。二人目は私が消した。規則だから」
「真由美が殺した?」
「ちがうちがう、消したの。殺すのとは違うよ。」
「どうやって消すの?」
「掃除人は皆ある道具を持ってるの。言っとくけど見せられないからね。見せる時は相手を消す時だから」
「それを使って消すと。消されるとどうなるの?」
「この世界から居なくなる。実際消された人がその後どうなるかはわからない。掃除人は消すだけだから」
「・・・。まぁ、消されるような事するなってことね。」
「まぁそういうこと。」

「タイムリミットが1ヶ月しかないんだよねぇ?それまでに何をしたら順応出来た事になるの?」
「その本に書いてあるToDoのどれかを毎日1回やる、それを1ヶ月出来たら完了。思ったより簡単でしょ!」
「内容によるんじゃないの…かならずやらなきゃならないんでしょ。そういうのって結構過酷なんだよなぁ。」
「大丈夫でしょ。わたしが四六時中ついてるから忘れてたら注意するし。っていうわけで今日からずっととなりに居るんでよろしく。仕事中は消えるから。」
「どうやって?」
「こうやって!」
「え?消えてないじゃないか」

と言った瞬間、向こうから足跡が聞こえてきた。女主人が飲み物を持ってきてくれたのだ。
「おまちどうさま。コーヒーと、ミルクセーキです。お姉さんはお手洗いかしら?」
「え?ここに」と言った瞬間、真由美は手を伸ばし斗真の口を両手で塞いだ。
「あうあう…」
「はい…?ではごゆっくりどうぞ」
女主人はにっこり笑って向こうへ戻っていった。

少ししてから「ふぅ」と真由美が言った。
「これはどういうこと?」斗真は目を丸くして聞いた。
「消えてみた」真由美は平然と答えた。
「えっと俺は見えてたけど?」
「そうなってるの。そういう仕様。わたしが消えると、あんた以外はわたしのこと見えないの。もう戻したから今は見えるけどね~」
斗真は全くこれに関して信じることは出来なかった。
「はぁ。消えたり現れたりはどうやってやるの?」
「訓練してこの技を使おうと念じれば出来るようになった。」
「グルなんだ?おばさんと。」
「そんなわけないじゃん。今日はじめて会ったんだし、そもそもこの店選んだのあんたでしょ。あとそれやめてね。さっき信じるって言ったー。やめないと消しちゃうよ?」
「あぁ、ごめん、でもなぁ、見えてたから納得いかないなぁ」
「これに関してはどう捉えてくれてもいいや。本当に消えてる事はそのうちわかると思うし。それにわたしが見られたら困ると思った時に使うだけだからね!」
「左様ですか…」
「飲み物冷めちゃうから飲もうよ」
「うん」
(大丈夫かな…)




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