日常幸せストーリー 第2話 通勤電車

2020年4月28日日常幸せストーリー,執筆作品

今朝の電車は異常に混んでいた。

私の仕事は試食販売員。

毎日違う現場に向かう。

同じ現場は長くても2日。

現場が違うことで毎朝新鮮な気分で出勤できるし、毎日のように顔を合わせる人もいないから煩わしい人間関係に悩まされることもないし、帰りにご当地グルメを食べたりできるのでこの仕事はとても気に入っている。

商売道具はいつも大きなスーツケースに入れて持ち歩いている。


今日はゴールデン・ウィークに入る前日。

「あの女の人、海外旅行でも行くのかな?」

満員電車の中でおしゃべりする女子高生の会話が耳に入る。

「違うよ。仕事だよ。」

私は心の中で答える。

スーツケースを持っているとたまにこういった想像をされるようだ。

でも仕事だよ。

電車での迷惑になりうる行為が嫌いだから日頃から気を付けて、大きなスーツケースの場合は自分の身体に密着させるように寄せる。

それにしても電車の中の不機嫌そうなサラリーマンやOLさんがなんて多いこと。

「コレがあたって痛いのよね~!!」

突然の出来事が始まった。

私の目の前にいた、痩せ気味のザマス眼鏡をかけた如何にも【お局様】という感じの恐らく40代後半の女性が露骨に嫌な顔で周りに聞こえる声で叫んだ。

それに便乗したかのように隣の【若いサラリーマン】が私を睨みつけてきた。

そしてさっきから私をチラチラと見る【チャラい感じの兄ちゃん】。

私は今、最悪の空間にいる。ホラーだ。

バン!

チャラい感じの兄ちゃんが私のスーツケースに勢いよく手を置いてきたので辺りに音が響く。

叩くような音と言ったほうが正しいかも知れない。

私は唖然とした。

「新宿駅で降りますか?」

とチャラい感じの兄ちゃん。

「はい」

と静かに頷いた。

(何か因縁でもつけられたかな?)

私は不安になった。

そして新宿駅までが長く感じる。


特に遅延等も無く新宿駅に着いたが、私はその一駅分がとても長く感じた。

(やっと新宿駅に着いた!やっとこのホラーゾーンから解放される!)

逃げるように電車を降りて階段を駆け上がった。


(え・・・?)

スーツケースが突然軽くなった。

ふと後ろを振り返ると、なんとチャラい感じの兄ちゃんが後ろでスーツケースを持ってくれていた。

「あぁ!ありがとうございます!」


その時、チャラい感じの兄ちゃんの電車での怪しいと思った仕草の理由が憶測だけれど解かった気がした。

チラチラ私を見ていたのは【お局様】と【若いサラリーマン】からの理不尽な仕打ちを受けていた私を見て、心配してくれてたんだ…。叩くような音を出したのはもう耐えられないという意思表示だったんだ。普通に、優しい若者だったんだ…。

感慨に浸るとともに、自分の誤った思い込みを恥じた。

チャラい感じの兄ちゃんは階段を昇り終えると黙ってさーっと立ち去ってしまった。

私は後ろ姿が見えなくなるまで頭を下げた。

一人でまた歩き始めると、そこには柔らかく爽やかな風が吹いていた。

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