日常幸せストーリー 第3話 缶コーヒー
色とりどりの花が店頭を彩る。
花屋は季節を感じられる仕事だ。
チューリップは春。
ひまわりは夏。
コスモスは秋。
そしてシクラメンは冬。
オーナーが週3回早朝に市場へ出向き、私たちスタッフは開店1時間前のシャッターの閉まった店の前でオーナーを待つ。
オーナーが市場で厳選した花たちを積んだトラックが店の前に停まる。
シャッターを開けたら花の入った箱を店の中に運んでいく。
運び終わったら花たちの水揚げだ。
菊は茎下半分の葉を手で削ぎおとし、水の中で手おりする。
その他の花は水を張ったバケツの中に茎を入れて水の中で斜めにカットする。
水揚げを終えたら花たちを綺麗にバランスよく並べて最後に値札をつけて開店。
「もう年末かぁー」
店外でお正月飾りや門松を売りながら1年を振り返っていた。
彼女の誕生日に年の数だけ薔薇を買っていった人、泣きながら葬儀の花を頼みに来た人、母の日の目まぐるしい忙しさ。
「ねぇー、間違ってコーヒーを沢山買っちゃったから、あなたたち貰ってくれないかしら。」
先程、お正月飾りを買ってくれた上品なご婦人が私と同僚のHさんに缶コーヒーを差しだしてきてくれた。
とはいえ突然の出来事と仕事中の身でありお客さんからの差し入れを受け取ってよいのかと私たちが戸惑っていると、
「本当に気にしないで。買いすぎて困っているの。押し付けちゃってごめんね。」と私たちの手において立ち去ってしまった。
缶コーヒーは温かった。
「きっと寒空の下で働く私たちを見て、私たちに気を使わせないような言い回しをして差し入れをしてくれたんだね。」
同僚のHさんと話しながら缶コーヒーで乾杯した。
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