日常幸せストーリー 第5話 夜明けの牛丼

2020年5月1日日常幸せストーリー,執筆作品

うちの夜勤は午前3時に店を閉め、それから隅々まで掃除をする。


全ての洗い物を済ませる。

大きすぎて洗浄機では無理なものは手で洗い、焦げついたコンロの五徳などの油の頑固な汚れがついた物は別途、金タワシでゴシゴシこする。

フライヤーの油は代えておく。

その他テーブルの上に不備がないか確認

床に洗剤を撒いてデッキブラシでこする。

等々。

朝の従業員がお店来た時スムーズに仕事ができる様にしておくのは深夜従業員の仕事の一つだし、朝と夜の従業員の対立の予防の一環となる。

飲食店は後片付けに費やす時間に結構な結構差があったりする。

営業時間が終わって15~30分で済むようなところは、営業時間中にどんどん済ませているはずだ。


「ふぅ、終わった!」

時計を見ると4時半になっていた。外はまだ暗い。

コートを羽織りマフラーを巻いて外にでる。冷たい風が頬を撫でる。

帰り道途中の牛丼屋に目が行く。この寒い中で目に入る牛丼屋の店内の明かりはとても温かく感じて、誘惑に負ける。

(ぐぅー。お腹すいたなぁ。食べて帰ろう。)

【牛丼 並】の食券を店員さんに渡し椅子に座る。

テイクアウトの牛丼を頼んでいた若者が、牛丼の入った袋を下げてドアの方に向かうと思いきや、何かニヤニヤしながら私の隣に腰をおろして「持ち帰りにしなきゃよかったな~姉さん仕事帰りすかっ?お疲れっす」と絡んできた。

無意識に食べる速度があがる。早くここを立ち去りたい。店員はこういう客に慣れていないようでオドオドしている様子。

「そんなに急がなくても~なんかいいことないかなぁ~」

「いいことないなら作ればいい!」
私は適当に返した。

「俺、厄年なんです。仕事もプライベートもうまくいかなくて。うっうっ。」
そう言って泣き出してしまった。

「泣くな!いいことあるよ!」
卓上にある紙ナプキンを取り出して若者の涙を拭いた。

「俺、ここで働こうかなぁ?」

「無理だよ。」

「店員、俺にひいてる」

「今さら?さっきからずーっと引いてるよ。」

「ぎゃははは」

「ご馳走さまでした!」

店員は相変わらずオドオドしながら深々と頭を下げてきた。

「俺も帰ろうっと」

若者は元気に席を立つ。

外はうっすらと明るくなり始めていた。

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