超短編ストーリー 第31話 マッチングシステム 前編

2020年5月24日超短編ストーリー,執筆作品

「ホラーハウス Ⅱ」はその遊園地の看板アトラクションだ。看板になる程なので怖さが半端でない事は容易に想像はつくが、本当の売りは「吊り橋効果によるカップル誕生」であった。その内容を15秒という短時間に上手く纏められた動画広告が流されると一躍話題になった。ルールに含まれていなくても、既に幸福なカップル達がそのホラーハウスに入る事は周りの雰囲気が許さなかった。

アトラクションの外観は高さ25メートル程の巨大な半球形の真っ黒な建造物。タイトルの看板は無く、半球形建造物の壁一面にまんべんなく、様々な言語で「ホラーハウス Ⅱ」とおどろおどろしい字形で白でペイントされている。アトラクション前で並ぶスタイルではない為、実際に中に入ってみないとどの位人が居るのか分からない。

アトラクション内部は大きく分けて地上階と地下の2層構造になっており、客は入場すると、まず入り口からの通路5メートル間隔で天井中央に設置されている最新型スピーカーからの声により、地上階に中央に位置する映画館の様な【待機エリア】へと案内される。そこには椅子に座って文字通り自分の番を待つ事になる。椅子は映画館のそれとは少し違って背もたれの高い、一回り大きなコンフォート式のものだが、待機中は斜め後ろに傾いている為深く座らざるを得ないのと、席周りが上部と左右が卵型の仕切りで覆われている為、横にいる人間の顔すら確認出来ない様になっている。特殊な素材でできており、客が座ると卵型の外側が黒から異なる色に変化する。変化した色は客それぞれで色が異なる。一応、座る前に周りを見渡すとたまに同じ色の椅子が何処と何処にあるか確認は可能だ。

座った前方にはやはり映画館同様に巨大スクリーンがあり、客の待機中に退屈にさせない為の計らいか、このアトラクションの為だけに作られた短編映画が放映されている。眼への刺激を少なくさせる為なのか、時代に合わず白黒なのが特徴だ。

約10分の待機時間が終わるとアトラクションのメインである【ホラーエリア】への誘導が始まる。客は座ったまま特に何もしなくて良い。座席の下から前座席の背もたれ下辺りまでの床部分に青白い線が座席の幅で縦に2本現れ、静かに左右にスライド式に開口したかと思うと椅子ごと自動でやや斜め前方下へとエスカレーター式で移動させられる。いつのまにか卵型の前方が窓ガラスで覆われている為、客が事故で怪我することはまず無い。そこは地上と地下の間の設備、客同士をマッチンングさせる為の【椅子移動エリア】だ。つまり【待機エリア】と【ホラーエリア】の間に【椅子移動エリア】があるという厳密には3層構造である。

【椅子移動エリア】。そこは真っ暗だが近くや遠くの色んな場所で「ウィン、ウィー」と何かの移動音の様な音が聞こえ、目で確認出来るのは幾何学模様を成したLEDの光の点だけだ。光は鮮明に青色がかっていてゆっくりと点滅しており、綺麗で見ていて心地良い。椅子の動くスピードは結構早くてスリリングだ。眠りを誘われる事はない。また、昔車に利用されていたアンチロック・ブレーキ・システムの応用から出来た技術を利用している為か、乗っている人間に物理的負荷、負担を全く感じさせないものであり、酔う人は全く居ない。

自分の座席の移動音と同じ音が聞こえる事で、周りにいる人間、つまりこのアトラクションで今実際にマッチングされている客が多い事が想像出来る。自分の近くで「ウィン、ウィー」という音を聞いた時、暗闇の中近くに人がいる事による心細さからの開放、安堵の気持ちが芽生える。そして少し時間が立つと座席は最終形態へと変化する。自分の座っている卵型とは色調が対象色の卵型が自分の横にくっつき、色調がお互いの中間色に変化する。2つの卵型が放つその優しい光色によって、やっと互いの顔がぼんやりだが確認出来る。その頃にはいつの間にか覆っていた卵型の横のかけた部分が広くなり、同時に視野が広くなる。どんな素材でできているのか普通なら不思議で興味が湧くかも知れないが、このアトラクションに入ってくる客達はそんな事は気にもとめない。もっと興味深い対象が既に横に存在しているからだ。

【2つの卵】がくっついたこの段階で、このアトラクション側自体の目的は90%は達成している。

そのマッチングシステムは従来のような相手の趣味・趣向・相手の親族の構成・年収等から妥当そうなものを人為的なチェックにより選ぶといったものではなく、開発者からすると「より崇高なマッチングシステム」であった。あくまでも開発者に言わせるとだが。結婚した場合の離婚の恐れなど、将来の事も予見して排除と選別を繰り返し、最もうまくいくパターンを導きだし、これ以上のマッチングは無いと思しきものを【仮想カップル】としてマッチングさせるシステムであった。

「こんにちは!」

「こんにちは!」

お互い将来の相手を真剣に考えているので緊張した声となるもののハキハキと話す。1回このアトラクションに「乗る」のに、到底遊園地のアトラクションの値段とは思えない程の金額を払っているのだ。へらへらなどしていられるわけが無いし、黙ってる時間も勿体ない。

もっとも、マッチングシステム目線で言えばもう答えを出しているので、真剣に話そうがへらへらしようがなんら影響しないのだが。

※つづきはこちら→マッチングシステム 後編

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