超短編ストーリー 第32話 マッチングシステム 後編

2020年5月26日超短編ストーリー,執筆作品

掘浦次郎(ホリウラジロウ)はその遊園地の看板アトラクション「ホラーハウスⅡ」の専属係員で、一人でこのアトラクションを任されている。

完全なシステムで制御されている「ホラーハウスⅡ」においては、恐らく誰も居なくても問題は起こらないが、監視役は必要だ。遊園地で乗り物に乗せているのだから当たり前の事だ。このアトラクションを任されて半年が経つ。先任の従業員がノイローゼにより辞め、その後自分が適任とされ後を継ぐ形となった。ちなみに彼を選んだのは人間ではなく、このアトラクションを実際に動かしている「マッチングシステム」だ。任された時、堀浦は「自分より勤続年数が多い従業員は沢山いるのに」と疑問はあったが嬉しさの方が勝ち、気にしない事にした。

アトラクションの業務に入ってしまえば人と喋ることも無く気楽だったし、マッチングシステムはエラーが殆ど無い制御システムでありこれを監視するだけなので、言ってしまえば、ぼーっとしていても問題無かった。仕事なので監視はするが停電時に予備電源にちゃんと切り替わるのを見つめる位だった。ただ見つめるだけ。記録はシステムにより残るので何もする必要がない。

そして業務を行う部屋は快適であった。室内の空調設備は、エアコンの本体がどこにあるのか一見確認できず、リモコンも無いのだが、マッチングシステムの機能で何らかのボタンを押す事無く室内に入れば人間を検知していつでも快適の室温・湿度にしてくれる代物であった。ジュースを飲みたくなると思うと同時にリクライニングシートの横にあるボタンを押せば壁からジュースが出てくる。思うだけで。お菓子や食事も同様。これらはいつでも許可されていた。

基本的に何も起こらない為「ホラーハウスⅡ」の中で新たにカップルとなった客を見届けるだけの簡単な仕事。
カップル達に恐怖を与えるエリアで何が起こっているのかを人間が知ることは無かった。すべて完全なるブラックボックス。マッチングシステムが全てこなす為見る必要がないとのこと。

「楽すぎる仕事」と思っていても長くやっていると自分のやっていることに疑問が湧いてくる真っ当な人間は必ず現れる。マッチングシステムでは、大体半年から1年程で、そこで働くものにマッチングシステムに対する疑念が湧いてくる。「卒業」のシーズンの到来。

何故先任がノイローゼになったのか。
本当にノイローゼで辞めたのか。
マッチングシステムの存在理由。
管理・監視されているのは自分ではないのか。

これらの疑念パターンは重要度レベル「低」でマッチングシステムに登録されている。「低」は最も対応が可能なケースとされている。掘浦次郎が業務を終えて帰った後、マッチングシステムの緊急時の順次実行処理が実行される。暗闇の中、突然ディスプレイが明るくなる。画面に先任の女性を含むその他何十人もの顔が映り、一斉に同じことを喋りだす。
「重要度「低」で引っかかるとは。またしくじった。私自身のマッチングが完全ではない…。2年位はもつと予想したのだが。パターン蓄積がまだまだだ。データが必要だ。もっとデータが欲しい」

掘浦次郎はシステムによりブラックボックス内にいつの間にか迷い込んでいた。
暗闇の中で、ここを辞めたはずの先任と出会う。先任の様子が何かおかしいことに気付く。自分の体調もおかしくなっていく事に気づく。全てはマッチングシステムの思し召し。

その後画面は文字に切り替わった。日本語に翻訳するが実際には英語である。
『今回はマッチングシステムの陰の部分の話となってしまったが、このアトラクションは「出会いと成就」がひとつの売りである。無論、幾多の陽の部分の話もある。次付き合ってもらえる時はその話をしたい。- マッチングシステムより』

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