超短編ストーリー 第38話 監査役

超短編ストーリー,執筆作品

この国はニャハ2世という9歳の国王が治める【笑いの国】である。
先代の国王は全権限を息子ニャハに渡すと言い残して死ぬと、本当にその遺言通りになってしまったのだ。

ニャハ2世により、【何時、如何なる時でも笑顔でいなくてはならない】という法律がつい最近決まった。
【守れぬ者は厳罰に処す】との事。

それについての監査、つまり笑顔でいるかの確認は各自治体の監査役が行うとの事だった。
監査は2名1組で行われ、一人は実際に監査対象の住所の家に入って確認し、もう一人は意味もなく外で確認を待つ。1名で事足りるのだが、監査には2名1組とすでに決っている。

ある雪の地方で巨大な雪崩に巻き込まれ、重症ではあったが、運良く助かった子供の話があった。二部屋ある小屋の中で、父親と息子の二人暮らしであった。母親は子供が物心の付く前に病気で亡くなっていた。父親は看病しているが、今日その監査役がやってくるとわかったので、頭を悩ませていた。
「痛い…痛いよ..」
この地域は豪雪で頻繁に監査役が赴くのが困難な為、月1回となったが、運が悪かったのは法律が決まって初の一回目が子供が怪我をしたタイミングと重なってしまった事だった。

その小屋に監査役がやってきたのは午後2時だった。
(ドンドン!)
玄関のドアを叩く。
「監査~、監査~!!」
父親は急いで満面の笑みを作り、ドアを開けた。監査役はエスキモータイプの服を着ており、猟銃を縦にして肩にぶら下げていた。

「笑みであるか?」監査役が満面の笑みで言った。
「この通りです」父親も満面の笑みのまま応える。

「息子はどうだ?」
それを聞いた途端、父親の笑顔は苦笑いになった。

「息子を見せて貰えるかな?」
「じ、実は一昨日なだれに巻き込まれて、今渋滞なのです。」父親は苦笑いしながら応えた。
「笑みが怪しくなっている。子供をみせてもらおうか」

監査役は相変わらず満面の笑みだった。とても場面に合っていない笑顔だ。
子供部屋に案内する父親の苦笑いは続いたが、一歩一歩近づくにつれ、苦笑いはひきつり、子供部屋のドアの前に着いた頃には、とうとう笑顔は消えてしまっていた。
監査人はそれに気づくと満面の笑みで、持っていたある紙に✕印を付けた。
父親は悲しい表情でそれを眺めた。

子供のいる部屋のドアを開けると、
「痛い、痛い…」
痛くて笑っていられる筈もなく、子供はベッドの上で泣きながら横になっていた。監査人はそれを確認するとまた先程の紙に✕印を付けた。
父親はそれを見るとすぐに監査役に懇願した。
「お願いだ!せめて、せめて息子だけは助けてくれ」
「ええい、うるさい!」監査役は払い除けた。
「そしてそれ以上喚き散らしたら、もっと重罰となるぞ」
監査役はそういうと、子供部屋を出て行った。

監査は終了した。監査人が来てからものの2分。つまりこの家のものは✕という事で、報告されるのだ。
愕然としている父親を後目に、監査人は「また来るよ」と言って出て行った。その顔が満面の笑顔であったかどうかは父親にはどうでも良かった。

外に出ると監査人二人で色々話している声が聞こえた。
ドア越しに耳をやったとたん、ドアの下の隙間に紙を入れられた。
監査役二人が遠ざかっていくのが声の小さくなっていく様で分かった。

父親は恐る恐る紙を手にとって内容を読んだ。

「監査結果内容をここに示す」と書いてある欄に
「父親:[ロック] ✕」、「息子:[コーリエ] ✕」
と書かれていた。

下の方に「裏を見よ」とも書かれてあった。

紙を裏返すと、以下の内容が書かれていた。
「でも分かっている。この法律が馬鹿げている事。私はあなた達の味方。でも毎回私がここに来るとは限らない。外の床下にこれと同じ紙を用意してある。それにはどちらにも○を付けている。どうかそれをとっておいて、次回の監査時にそれを渡すように。それで助かる。勿論この紙は捨てるよう。私達は現在水面下で動いている。今しばらく、偽りの笑顔をいつでも作れるよう努力してほしい。」

「助けてくれたのか…」
父親はそう言うと、暖炉の火の中にその紙を投げ入れた。

安堵した表情のその瞳はゆらぎ輝いていた。

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